電子レンジ

京都在住。MUSICAライターになれなかった男が創作したりレビューを書いたり

■ANOTHER STARTING LINE/Hi-STANDARD

2000年発売の「Love Is A Battlefield」から約16年ぶりのシングル。ゲリラ発売で音楽ファンに驚きと喜びを与え、思わずニヤリとしてしまうような嬉しい瞬間とニュースを提供する悪い言い方をするのであればヤリ口は流石だなあと感じざるをえない。多くの人達が新曲が発売されるというニュースだけで細やかな生きる希望を感じさせてくれる瞬間になったと思っている。

ただ、再結成した、活動再開したバンドに共通して言えること。ここは隠してもしようがない。はっきり言うと違和感。だ。

いくつかのメディアでも新曲をいつか出す意思があることはわかっていたし、その頃から心の底では覚悟していたかもしれない。

当たり前だけど、ハイスタのメンバーも16年前からそれぞれのバンドで活動しているし、その頃からマインドも変わっているはずだ。

「Love Is A Battlefield」も良い作品だけど、僕らが愛していたハイスタの楽曲の多くはその前の作品だし、16年前どころではない。

それよりも僕らも16年間という月日の中で、苦しさや悲しさを経験し、想像していた未来は遠く険しいものと実感し、捉え方もドライになっている。

送り手と受け手がそれぞれの変化に流れる中、あの頃の気持ちで同じ感動を得られることなんてそもそもがありえないのだ。誰が悪いわけでもなく、ハイスタも僕らもあの頃のままではいられないのだ。

それでも、音源を聴くと声質が変わっても変わらない独特のハモり、息遣い、メロディや伸び、イヤフォンを食い込ませて聴いた、いつでも一緒にいてくれたハイスタなんだと感じることが出来る。

僕らが求めていたものと完全一致しなくても、長く体に馴染ませた細胞ひとつひとつが声をあげるのがわかる。

例えば試合の前に自分を鼓舞するために、憂鬱なバイトに向かう前、大好きな人に会いに行く阪急電車から見える景色、耳が切れるような寒さで原付に跨ってる時に。ハイスタと過ごした記憶が思い出させてくれる。そして問いかける。今、現在から見える景色とその頃の自分が景色の違いについて。

こっから先は自分自身だ。ゆるやかな挫折を繰り返して来た僕らが何を感じ、これからの生活をどう変化させるか。変化させないか。これは過去との対話を経て、新しく道を構築するか。全ては自分次第。