電子レンジ

京都在住。MUSICAライターになれなかった男が創作したりレビューを書いたり

空っぽ/SPECIAL OTHERS & キヨサク(from MONGOL800)



「あの、転職決まったんで辞めたいんです。お世話になったのに申し訳ありません。」


「うん、わかった。もう決めたことなんだよな。今後のことは明日話そうか。」


「はい、迷惑ばっかですみません。あの、ずっと聞きたかったんですけど、先輩はなんで・・・」


ため息を押し殺して言電話を切る。それと同時に軽く息を吐きだす。毎年と言っていいほど必ず1人離れていく。いつも複雑な気持ちでこの時を迎える。その時は思考を停止している。


電話が終わるのを待っていたかのように信号が変わり車が走りだす。青信号で進みだす未来よりも赤信号で現実と向き合う時間が多い。僕はどこに向かっていけるのか。


この街を照らす唯一の灯りのような弁当屋に入って、いつも同じものを選ぶ。壁の隅っこに貼り付けられた扇風機が無言で回り続け、強弱の設定に納得が言ってないようにカタカタと揺れる。閉店間際に駆け込んだ。お店は、厨房の熱気でムシムシとしている。


使い古されたベンチに座って帰ってからのこと、明日の起床時間、後輩のこと、社内調整のことを考えてうんざりする。間に挟まれて、周りに流されて日々は過ぎていく。チームの成功に喜んで、先輩や上司の出世を喜んで。その中にいる僕はどこに向かっているんだろうか。


『可もなく不可もなく生きてきた僕は

目を逸らすのが精一杯で

可もなく不可もなく生きてきた僕は

耳を塞ぐので精一杯で』


空っぽ。僕は空っぽなんだろうな。白にも黒にも染まれることを柔軟さと読んで、一定の評価に満足しているだけなのかな。それもいいやと思ってここまで来てる。


弁当を受け取って幹線道路沿いを歩く、点滅信号で立ち止まる。


そういえばSNSで30歳から企業した同級生がいたな。障害者雇用の人材派遣業だ。昔から成績はよかったけど、あいつは何の保証ない世界に飛び込んだ。いつどこでそんなことを決心したんだろう。自分には想像がつかない。とはいえどこにも行きたくないわけではない。この道の延長線上でどこかにたどり着ければと思っている。自分ではない誰かに敷かれたこの道を自分のオリジナルであるように。


『風に吹かれ さすらい生きてる花を

指をくわえて見つめている

風に舞って さすらい生きてる鳥を

指をくわえて見つめている』


長い横断歩道の中州で立ち止まる。前にも後ろにも車が行き交う。僕はどっちにも進めていない。いつも中州に立って見つめているだけだ。


「先輩はなんで実力があるのにずっとこんな所にいるつもりですか?」


「うるさい」


うるさい。そう反芻して横断歩道を歩きだす。頭を空っぽにして、雲の隙間から覗く月を見つけて、僕は僕はの道を、月と共に歩く。