電子レンジ

京都在住。MUSICAライターになれなかった男が創作したりレビューを書いたり

番外編-私の一人暮らし

僕が一人暮らしを始めたのは、一般的には遅い28歳の時だ。

それまでは実家の布団が何よりも大好きで、週末の爆睡眠を楽しみに生きていたのだけど、出張でホテル暮らしが続いたことや、週末になると彼女の家に入り浸ること、これは実家でなくても生きていけると謎めいた自信を持ち始めていた頃、彼女の家でサナギ生活が許されなくなり、成虫として手始めに同棲でもしてみるか。と、決心をきめ、先方の実家に八つ橋でも持って挨拶でもと思ってた矢先の頃である。


なんか一人暮らししてみたい!!


と思ってしまったのである。


それはすごく前向きな発想であり、このまま家事、炊事、洗濯を覚えないまま築く家庭よりも、不測の事態に備え、お互いが支え合う素敵な家庭が作れるのではないかと思ったからである。

世は夫婦尊重の時代、夫婦別姓、家事も仕事もお互いに固執しない、分担の時代だ。それに一度きりの人生。やはり経験として一度はやっておくべきだろうという結論に達したのだ。

そんな前向きな思いを、さも将来を見据えた、素敵で理解のある男性です。というアピールも込め当時の彼女にぶつけてみたところ、それはそれは、まあまあ、予想を超えた大修羅場の勃発である。

僕は予想にもしない流れで唖然とするしかなかった。彼女からすれば何やら彼氏がアホ面さげて、取ってつけたような理由を持って同棲やめて一人暮らししたいとなどと、もはや別れ話に近い話題を持ちだしてきたので怒りも当然である。

パンクバンドのボーカルが、飲食店の人達に寄り添う歌を歌いたいから、和民の店長をやる。と言ってきたようなものである。メンバー全員バンドを組んできたことを後悔するほどのアホさ加減である。

その時点で大まかな物件、家具選び、ペアの食器選びなどなど。実際に内見に出かけては、

「ここはケンカした時の逃げ場ね。ウフフ。」

「料理は早く帰ってきたほうの担当ね。俺、チャーハンには自信があるぜ。」

「チャーハンは料理として承認する。」

「じゃあ手始めにお互いの親に挨拶してちゃんと許可もらわなきゃね。」

「俺たちそうゆう所はちゃんとするぜ。フガフガ」

などと、不動産営業も呆れるような会話を繰り広げていた話していた矢先である。

今冷静に考えると、自分のアホさ加減にうんざりするのだけど、その時は今後のための画期的な案であると疑わなかったし、もめればもめるほど、決して妥協してはいけない事柄のように思えた。

その後は、彼女が出してきた「同じマンションの隣同士で一人暮らしをする」こちらもアホな妥協案も合意を得られないまま、一度出来た隙間は埋まらず、お別れをすることになった。

その後、何故か恋愛に傷ついたふりをして、実家でダラダラと失恋の思いを噛み締めたポーズをとった後、念願の一人暮らしに突入することになったのである。

一通りの家具家電をイチから揃え、念願の一人暮らし、自分の城、家賃や光熱費を払うことで暮らすことの責任感と緊張感。築浅のワンルームマンションに1人佇む。これからが本当のスタート!




あれ、一人暮らしでやりたいこと終わってるくない?




実家から持ってきたものは少なくほとんど購入したものばかりなので引っ越しはほとんどなかった。日曜の18時。微妙な時間だ。お腹もまだ空いていない。とりあえずテレビをつける。

ふむ。いつも観てるテレビと変わりはない。コンビニで購入したペットボトルのお茶を購入したマグカップに入れて飲んでみる。ふむ。ただのお茶だ。生茶だ。

真新しいカーテンを窓から京都タワーを眺める。この部屋を決めたポイントでもある。見慣れた京都タワーだ。洗濯するものも特にない。とりあえず夕食を取って、風呂に入ってもそれ以降も特にすることはない。ぼちぼちのタイミングで就寝するも、遅刻が怖くて眠れない。

ふいに目覚め、寝過ごした気がしてカーテンを開ける。真っ暗、午前4時、京都タワーもちろん眠っている。難しい。一人暮らし、難しい!

と、最初は戸惑いながらの生活を続けるていたけれど、慣れるとそれはもう快適な生活に早変わり。

食べるものも、眠り方も、起き方も全て自由自在。週末に1人で宅配ピザ食いながら寝てたり、自分でもわけのわからない生活が楽しくて仕方がなかった。

そして何よりも、夜の街で出会った毎回違う女性達を部屋に誘って、京都タワーを眺めて、一度きりの出会いを謳歌したり、隣に引っ越してきた同じく一人暮らしの女性と作りすぎたおかずの交換をしたり、お互いの家を行き来するようになったり、お互いの家にお互いの食器と枕が置いてみたり、部屋をチェンジしてみたり、けどやっぱり寂しくなってどちらかの部屋に行ってみたり、最終的には2人で一緒に引っ越しすることになったり。


、、みたいなエピソードは全くなかったです!強がりで二つ買った食器も最後まで値札がついたままでした。今は一人暮らしの家にあまり来たことがない奥さんと結婚して幸せな生活を送っておりますが、今でも自信を持って言えます。


一人暮らし最高!もう一回一人暮らししたい!